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コラム

 病院物流の今昔と明日

ホスピタルソリューションG 三谷 美和
2020年4月25日

 病院内の物流がクローズアップされたのは、1980年代後半に行われた米国3M社の日本法人で住友3M社が主催した「米国病院事情の視察」からだった。 当時は、病院内のあらゆる部署のあらゆるスタッフから医療材料の納入要求(卸への発注)があった。無法地帯であったわけだ。 特に自治体病院では事務方が2,3年周期での異動のため物流は現場任せで発注情報も一元管理ではなかった。当時は現在の特定保険医療材料(償還価格が設定)ではなく特定治療材料といって、 病院の購入価格で請求できるという仕組みからの変換期だった。折しも病院数や病床数の増加施策から国民医療費抑制への転換とも相俟っての事だ。当然のことだっただろう。
 このため少しは病院で購入している物品の管理と現場任せの物流から脱却しようとの機運に乗ったこともあり、病院内物流管理はSPD(Supply、Processing & Distribution)と呼称され広まることとなったのも知る通りだ。
 当初事業として担ってきたのが医療関連企業系や商社系の専門事業者であったが、物販市場の従来権益を守るため医療機器卸が大量に参入したのは周知の通り。

院内物流の方法

 院内での物流を運用する方法は、古くからカート交換方式次いで定数カード方式と変わってきたが各運用方式を簡単に説明する。
(1) カート交換方式
 カート交換方式とは、あらかじめ決められた品目と品目単位の数量をカート内に配置し、定期的に交換する方式。 回収したカートは使用量をチェックし、使用分を補充するとともに物流情報システムへの入力を行う。我が国では兵庫県立尼崎市立病院で採用されたのが最初と思われる。 しかしながら、使用量の確認など作業負担が大きいこととカート自体が高額であったため思ったほど採用は広がらなかった。
(2) 定数カード方式
 定数カード方式は、使用量補充方式の一つであるがカート交換方式同様あらかじめ決められた品目と品目単位の数量を定数として供給するのだが、定数品はカードが添付されており使用時にカードを回収箱に投入する。 それを定期的(毎日)回収して物流情報システムにカード読み込んで供給リストに基づいて同数を供給する仕組みである。 多くの場合各品目は決められた数量を1袋にカードと共に入れられている。使用されるカードは、リユースカードか使い捨てカードであるが何れにしても大きな相違はない。

新たなる運用方式(働き方改革に対して)

 病院物流の運用が上記2方式何れか及びその組み合わせでしかないことは理解できたと考える。 それでは、人手不足と物流の殆どが人手作業を考えたときに適用できる運用方法は何だろう。筆者たちは5年ほど以前よりコスト分析の精度を上げるためにDPCデータを積極的に利用できないかと検討してきた。 その答えとして医療行為単位での使用物品の標準化とそれによる集計だった。この方法の運用上の問題の有無を単科病院であるが実証実験を行った。論理的な消費情報が実消費との差異の検証では、使用量の差異は+-5%の範囲で収まっていることを確認した。
これを実際の物流に適用できないか。その結果がカードレスシステムの運用だった。

 カードレスシステム方式とは、オーダエントリ及び実施入力情報を利用して使用分を補充する方式だ。手術やアンギオでの高額材料については行われていたが病棟での供給についても実施される。 特に処置等のセット化を行い、実施データと紐づける方法だ。これにより、カードの回収、カードの紛失による捜索及びカード読み込みなどの作業負担を軽減することが可能になる。
ともあれ出来る限り人手作業の分析を行い、その負荷軽減を行う方法を検討することが今後の病院物流を円滑に運用し人手不足の解消と働き方改革推進のためには必須と考える。

 以下にその他、病院内での物流で人手作業とその負荷軽減のために有用と考えられる適用技術を挙げてみた。

業務名 適用技術 説明
カード回収 ICT カードレシステムの運用で回収作業は無くなる。
カード読込み ICT 上記同様でカードレスなので読み込み作業も無くなる。
ピッキング
ICT
ピッキングは、倉庫がどのようなスペースであっても格納単位(包装、バラ)でロケーションを別にし、ピッキングリストはワンウエイで行えるように印刷する。
パッキング(流通加工) 流通加工は可能な限りしない。手術や処置のセットなど以外単品定数での供給をできるだけ少なくする。
カート積載 カート自体の設計を搬送する物品の形状に合わせて行う。
搬送・格納(各部署) ROBOT 搬送ロボットを格納什器と兼用にすることで、搬送と格納作業は無くなる。
返却品回収 ROBOT 回収時には、上記のように使用することで回収に伴う搬送は無くなる。
返却品確認・格納(センター) ROBOT 返却品の確認は、返却予定リストを基に目視だが庫内格納時には作業支援ロボットの使用で作業負荷軽減につながる。
返却入力 ICT 実施入力データとの照合で未使用物品の特定を行い、返却品の検収を実施した後自動で返却入力とする。
発注書(補充依頼)作成 ICT
AI
AIで入院患者動向や疾病動向の分析で必要品目・量を推定し、発注品目・数量を確定する。
発注(補充依頼) ICT 従来の物流システムで卸へEDI発注またはメール機能による発注を行う。
入荷検収
入荷入力
ICT
RPA
入荷検収は、当日入荷データを卸から送信してもらい発注データとの突合をシステムで行う。その後現品を確認しデータとの差異がなければ自動的に入荷入力とする。
庫内格納 ROBOT 医薬品など重量物の庫内格納時には、作業支援ロボットの適用で作業自体の負荷軽減につながる。
在庫確認 IOT RFIDが徐々に製品にソースマーキングされてきているため、格納什器に読み取り機を設置することにより有無の確認が可能になる。

※着色部分は、新技術適用外だが運用での軽減ポイントを記載する。

注)上表での用語説明
ICT : Information and Communication Technologyの略で、情報通信技術を意味する。ここでは、従来のシステムでの工夫を含めて可能であることを示している。
RPA : Robotic Process Automationの略で、デスクワーク(定型作業)を、パソコンの中にあるソフトウェア型のロボットが代行・自動化する概念。ロボットと言っても作業支援を目的とするものではなくソフトウエアであると言っても良いと考える。
IOT : Internet Of Thingsの略で、モノのインターネットと訳されている。インターネット経由でセンサーを持ったモノ、自宅のドアの開閉状態や照明の点滅状態、及び自宅のペットの位置などの情報を知ることが可能になっている。こういった機能を様々な場面で活用することが出来る。
ROBOT : ロボットと言っても、人型ロボットではなく人間の作業を支援する目的で開発されたもの。人やモノとの衝突を避ける機能と目的地まで自動で移動でき搬送を担う搬送ロボットや格納什器と取出しを担う調剤ロボット及びマッスルスーツと呼称され重量物積み下ろし作業軽減を目的とした作業支援ロボットに分類される。  搬送ロボットの運用は廊下スペースや昇降機利用の問題から実際の運用は夜間に限定されると考える。
AI : Artificial Intelligenceの略で、人工知能と訳す。この定義は、「人工的にコンピュータ上などで人間と同様の知能を実現したもの」とされている。
また、AIにはレベルというものが存在し、「強いAI」と「弱いAI」に大別される。
① 強いAI
汎用人工知能と呼ばれ、人間の知能と同様で人間の仕事をこなせるようになり、知識と自意識を持つもの。例えば、鉄腕アトムやターミネーターなどがこれに当たる。が、現時点ではこの世の中では実現していない。
② 弱いAI
特化型人工知能と呼ばれ、全認知能力を必要としない程度の問題解決や推論を行うソフトウエアのことを言う。例えば、囲碁、将棋及びチェスのシステムやディープラーニングはこれにあたる。現時点でAIと呼ばれるものは全てこれに該当する。

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